愛犬に会いたい。
故郷に帰りたい理由を、大学に入りたての1年間はそう思っていた。
しかし、学生寮から一人暮らしのアパートに入り、もやもやとした感情が愛犬に会いたいだけではないと分かる。
僕は単に「ホームシック」にかかっていたのだ。
最初は愛犬に会いたい気持ちだったけど、一人暮らしで貧相な食事になってから故郷のご飯が恋しくなった。
ホームシックは人それぞれであり、故郷を離れる人の大半がホームシックを経験するとイギリスの論文に書いてあった。
しかし、ほとんどはホームシックが軽くなっていくものの、そうでない人も一定数いるらしい。論文では10~15%が深刻なホームシックを訴えると書いていた。
だから、その10~15%の人のためになる研究ができると思って、僕は卒業論文のテーマを「ホームシック」にした。
そして自分を苦しめるホームシックを克服したいという願いもあり、大学3年生から卒業までの2年間、ホームシックを研究することになった。
ホームシックの過食・不眠・うつで寿命を縮める

僕自身、ホームシックのストレスで悩まされた4年間だった。
自分から故郷を飛び出したのに苦しむのがホームシックの恐ろしさだ。
ホームシックはいろいろな論文で定義されている。
ある論文では「新しい場所になじめないことによる反応」であったり「故郷の慣れ親しんだ家族や友達と離れることによる反応」と定義されている。
ホームシックで深刻なものは自殺に繋がることからも、ホームシックを馬鹿にしてはいけないと思った。
僕もホームシックによって気分の落ち込みがひどかったし、気分の落ち込みがあると好きなこともできなくなってしまう。その症状はまるで「うつ病」のようだ。
帰省すると落ち着くためうつ病ではないだろうけど、あの気分の落ち込みは尋常ではない。急性の適応障害ともいえるかもしれない。
また、ホームシックによって故郷に帰れないストレスから暴飲暴食を繰り返した。
最初は「食べ過ぎ」だと思っていたものが「お腹いっぱいにも関わらず、胃袋が痛むまで食べ物を詰め込む」までに悪化してしまった。
結果として、大学卒業の今、病院で成人病である「高脂血症」と診断されてしまった。
過食が始まったのは2年生の終わりだったけど、2年間のダメージが積み重なって身体が悲鳴をあげている。
家族からは「食べ過ぎによる怠惰な生活の積み重ね」と責められるけど、ストレスがあると食べたくもないのに食べてしまう僕にとって、その言葉は冷たい。
大学の終わりでは卒業論文のストレスも合わさって不眠となった。
このように、ホームシックによって寿命を縮めてしまう人は存在するしそのような人に役立つ研究をしたいと思った。
また、僕の出身は岩手県で3.11の東日本大震災を経験した。
内陸で津波は来なかったけど、沿岸にいって津波の映像を見たり小さいときから災害に向き合ってきた。
そのため、災害によって故郷を離れなければならない人にもホームシックの研究が役に立つと思った。
過去の研究で示されていたホームシックの要因とは

このような理由で僕はホームシックの研究を進めることになる。
僕が研究したかったのは「ホームシックを引き起こす要因」だ。ホームシックの要因を突き止めることができれば、その要因を和らげたり消すことでホームシックの軽減に繋がると考えたからだ。
そこで、ホームシックの研究を読み進める。
過去の研究ではホームシックの要因として「情緒不安定」「神経症傾向」「硬さ(新しい環境に慣れづらい)」といった個人の特性が示されていた。
また、「家族や友人からの支援」や「家族との関係」といった環境からの要因もあるようだ。
このように、ホームシックの要因も「個人の特性」と「環境要因」の2つに分かれるらしい。
どちらを扱うのかを迷い、結局2つの要因を使ってみたのが僕の卒業論文だ(てきとうに決めたかのように書いたけど、研究を読み込んで決めた)。
これから学会で発表するかもしれない論文だから細かいことは言えない。そのうち、お遊びメンターの活動を通してみなさんにお見せする機会も出てくるはずだ。
ホームシックの卒業論文を書いた感想

僕の卒業論文の研究テーマはとてもシンプルで、「自分が悩んでいること」だった。
自分の悩み事を研究のテーマにするのは先生から見たらどうかは分からない。
しかし、自分と関係のあるテーマだったし研究をしていて楽しかった。
僕と同じゼミ生は「摂食障害」「SNS上の攻撃性」「ユーモア」といったテーマを研究していた。
研究を聞いていて面白かったし、「このテーマにしたのは自分が悩んでいるからなのかな?」と感じる方もいた。
結果として、僕は研究テーマをホームシックにしてよかった。
まず過去の研究を読むというのが卒業論文を作る第1ステップだけど、この作業で挫折してしまう人は多い。
関心のないテーマだと、堅苦しい言葉と図表が並べられた論文を読むのはめんどうだ。
また、論文の読み込みがあまいと、自分の研究がすでに過去にされたことがあるという「研究の独自性」が失われてしまう。
しかし、自分の興味のあるテーマを設定したことで論文を読むのが楽しかったし、独自の視点で研究ができた。
このように、ホームシックを研究テーマにしたことでなんとか卒業論文の提出にこぎ着けた。
しかし、研究を進めるとまだ明らかになっていない研究の課題が見えてくる。
だから、僕はこれから大学院に進学しカウンセラーを目指しながらもホームシックの研究を進めていきたいと思う。